「予防と健康管理ブロック」レポート
1.はじめに
授業で供覧したビデオの内容を踏まえて、与えられた2つのキーワード群から自分の好きな組み合わせを選び、それについての論文を読んだ上で自分なりに考察し、レポートを作成した。ビデオは「うつ病」と「アスベスト」についてそれぞれ2本ずつ供覧した。
2.選んだキーワード
僕が選んだのは「depression」と「character」であったので、depression;つまりうつ病についてこの2語に関連のある論文を検索し、該当するものの内の一つをレポートの題材とした。
3.選んだ論文の内容と概略
「Public
beliefs about causes and risk factors for mental disorders: a comparison of
Japan and Australia」(日本とオーストラリアにおける精神疾患の原因とリスクファクターについての公衆の信念)
<概略>
さまざまな西側諸国での公衆の調査では、精神障害の原因として社会的なストレス要因への支配的な信念を示した。 しかしながら、直接的な異文化間における比較がほとんどなされなかったため、日本とオーストラリアの精神障害の原因に関して公共の信念の比較することを試みた。
公衆の調査は、各国で用いられている適切な方法論を使用することで実行された。 両国では、家庭のインタビューは、憂うつ、自滅的な考えがある憂うつ、早い精神分裂症、慢性の精神分裂症の4つのケース項目の内のどれか1つの原因と危険因子に関する信念について実行された。 日本の調査は国中で広げられた25の地方のからの20歳から69歳までの2000人の人に対して行い、 オーストラリアの調査では18歳以上の3998人の人達を対象に調査を行った。調査内容としてはDSM-IV-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル)による大うつ病エピソード、ICD-10(国際疾病分類第10改訂版)によるうつ病エピソードに則った検査項目で行った。
(参照;http://www.utuban.net/medical/standard/index.html)
両国では、社会的なものと同様に個人的な脆弱性原因がすべての項目において一般的に是認された。 原因の信念の主要な違いは、オーストラリア人は感染、アレルギー、および遺伝的なものが要因だと思いがちなのに対し、日本人は「神経質な人」や「性格的な弱さ」がなり易いと考える傾向にあることだと判明した。 危険因子として、オーストラリア人は憂うつに関しては女性、若者、および貧乏人が、より危険であると信じている傾向があったが、このようなグループ的な危険因子は日本には見られなかった。
日本とオーストラリアの両方では、公衆は個人的な脆弱性要素もまた重要であるとみなされている一方、社会的な原因と危険因子に支配的な信念しかしながらまた双国の間には、いくつかの大きな違いがあり、日本で強かった性格的な弱さが原因という公衆の信念はプロに助けや他人のサポートを求める見込みを減少させるという理由で特に関心を集めている。
4.考察
この論文における調査は一般人が精神疾患の原因やリスクファクターとしてどういうものがあるか、その信念を日本とオーストラリア両国で比較したものだが、予想通り日本は「精神的な弱さ」や「神経質な人」など、個人的かつ内因的なものがなり易い要因だと考えられている一方、オーストラリアでは感染、アレルギー、遺伝的なものと社会的又は個人的かつ外因的ものがなり易い要因として挙がっていることに文化の相違を見て取れた。
今回のテーマである鬱病は精神疾患の代表的なものであるが、日本でもその罹患者は増加する一方で、社会問題化しつつある。「急増する働き盛りの心の病、うつ病」のビデオにもあったとおり、企業でうつ病により仕事が手につかなくなるという問題も増加している。特に30代の働き盛りの年代に多く、人員削減に伴い一人一人により多く且つ質の高い仕事が求められるようになり、仕事内容の劇的な変化に伴う仕事の深刻化により焦りや不安が募り、コミュニケーション不足から他人に相談出来ないままうつ病になるケースが多い。具体的には30代後半は数少ない管理職ポストを狙う競争のため、30代前半はより多くの仕事量が任されてそのどちらの世代もうつ病を発症しやすい背景が出来ている。こういった中企業内でのメンタルヘルスチェックシステムの迅速な構築やうつ病患者の職場復帰を促すNPOの活動などの需要が増えている。複雑化してきた社会に人の精神が追いついていない現状で、メンタルヘルスを管理する職の構築の重要性はとても重要になってくると思う。また「ストレスをとらえろ」のビデオでは、血圧、交感神経、副交感神経の活動や唾液中のアミラーゼ濃度などを測定し数値化することで、比較不可能であるストレスの一つの指標として注目されている。ストレスは急性ストレスと慢性ストレスの2つに分けられ、急性は休養を取ることで回復するが慢性はうつ病を始めとする様々な疾患に繋がるとされている。ある一定の遺伝子発現によってこれらを見分け、疾患の予防に役立てようという研究も進められている。ストレスは人それぞれ感じ方、受け止め方が違い決して数値のみで表せるものではないが、客観的に捉えることの出来る一つの指標として考えていくことはこれからの精神疾患の研究の上で大いに役立つと思う。
ここでうつ病について調べてみた。
うつ病とは、気分障害の一種であり、抑うつ気分や不安・焦燥、精神活動の低下、食欲低下、不眠などを特徴とする精神疾患である。アメリカ合衆国の操作的診断基準である DSM-IV-TR などでは、「大うつ病」(major depression)と呼ばれている。あまり生活に支障をきたさないような軽症例から、自殺企図など生命に関わるような重症例まで存在する。うつ病を反復する症例では、20年間の経過観察で自殺率が10%程度とされている。
うつ状態には、次のような性質のものがある。@一過性の心理的なストレスに起因するもの A統合失調症・パニック障害など他の疾患の症状としてのもの B季節や生体リズムなど身体の内部の変調によって生じるもの(内因性うつ病)。こうした様々なうつ状態のうち、臨床場面でうつ病として扱われるのは DSM の診断基準に従って、「死別反応以外のもので、2週間以上にわたり毎日続き、生活の機能障害を呈している」というある程度の重症度を呈するものである。
DSM の診断基準を用いたうつ病の有病率についての 12 の疫学的研究を見ると、ある時点で過去1ヶ月以内にうつ病と診断できる状態であった人の割合は、1.0%
- 4.9%であり、おおむね約2.8%が平均的な調査結果であった。また、生涯のうちにうつ病にかかる可能性については、近年の研究では15%程度という報告が多い。また、日本で2002年に行われた1600人の一般人口に対する面接調査によれば、時点有病率2%、生涯有病率6.5%とされている。これらの研究結果から、ある時点ではだいたい50人から35人に1人、生涯の間には15人から7人に1人がうつ病にかかると考えられている。
うつ病の症状を理解するには、大うつ病についての DSM-IV の診断基準を参照すると良い。DS-IV の診断基準は、2つの主要症状が基本となる。それは「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」である。「抑うつ気分」とは、気分の落ち込みや、何をしても晴れない嫌な気分や、空虚感・悲しさなどである。「興味・喜びの喪失」とは、以前まで楽しめていたことにも楽しみを見いだせず、感情が麻痺した状態である。この2つの主要症状のいずれかが、うつ病を診断するために必須の症状であるとされている。これら主要症状に加えて、「抑うつ気分」と類似した症状として、「自分には何の価値もないと感じる無価値感」、「自殺念慮・希死念慮」などがある。これらのグループの症状をまとめると「気分が落ち込んで嫌な毎日であり、自分には存在している価値などなく、死にたいと思う」という訴えとなる。「興味・喜びの喪失」と類似した症状としては、「気力の低下と易疲労性」、「集中力・思考力・決断力の低下」がある。このグループの症状をまとめると「何をしても面白くなく、物事にとりかかる気力がなくなり、何もしていないのに疲れてしまい、考えがまとまらず小さな物事さえも決断できない」という訴えとなる。さらにこれらの精神症状に加えて「身体的症状」として、食欲、体重、睡眠、身体的活動性の4つの領域で、顕著な減少または増加が生じる。訴えとしては「食欲がなく体重も減り、眠れなくて、いらいらしてじっとしていれない」もしくは「変に食欲が出て食べ過ぎになり、いつも眠たく寝てばかりいて、体を動かせない」というものである。DSM-IV では、主要症状1つを含む5つの症状が2週間以上持続することが、大うつ病診断の条件となっている。
うつ病・うつ状態には、様々な分類がある。まずうつ状態そのものの分類は大きく分けて、症状の重症度で区分する分類と、成因で区分する分類に分かれる。DSM−V以降の米国精神医学会のうつ病分類では、疾病の成因についての判断は保留され、うつ病性障害は、「ある程度症状の重い大うつ病」と「軽いうつ状態が続く気分変調症」に2分されている。 一方古典的分類では、疾患の成因についての判断が優先され、「心理的誘因が明確でない内因性うつ病」と、「心理的誘因が特定できる心因性うつ病」の2分法が中心となっている。 DSMなどの症状のみで判断する分類は、客観的であり、研究には適している。一方治療を行っている臨床場面では、心理的誘因の評価は不可欠であり、古典的分類の考え方は、今も生きている。さらに、うつ病の長期経過による分類がある。すなわち、躁状態を呈する躁うつ病、うつ病を繰り返す反復うつ病、再発のない単一エピソードうつ病の区分である。まず、長期経過の中でうつ状態に加えて躁状態も生じる場合には、躁うつ病(別名:双極性障害)と呼ばれる。これに対して、うつ病を繰り返し生じる場合には、反復性うつ病と呼ばれる。この反復性うつ病は、遺伝研究などによって、躁うつ病と根本的には同一の疾患であるとされている。一方、再発のないうつ病は、単一エピソードうつ病と呼ばれ、躁うつ病とは異なった疾患であると考えられている。
「うつ病は心のかぜ」などとも言われることがあり、一部にうつ病は簡単に治るという理解が広まっている。かつては、電気けいれん療法しか効果の証明された治療法が無かった、その後、抗うつ薬などの登場で薬物療法が発達した。過去に比べれば、うつ病に対する治療法は確立されてきている。うつ病では、6ヶ月程度の治療で回復する症例が、60ないし70%程度であるとされ、多くの症例が、比較的短い治療期間で回復する。しかし、一方では25%程度の症例では、1年以上うつ状態が続くとも言われ、必ずしもすべての症例で、簡単に治療が成功するわけではない。また、一旦回復した後にも、再発しない症例がある一方、うつ病を繰り返す症例もある。このように、様々な経過をとる可能性があることは認識しておく必要がある。治療方針としては、心理的葛藤に起因しない内因性うつ病の場合、基本的に一般の病気と同じである。すなわち、病気であることを本人・家族が納得し、「無理をせず、養生して、薬を飲んで、回復を待つ」ことである。 内因性うつ病の症状は、"気の持ちよう" "努力"などで変えられるものではない。変えられないものを、変えようと無理をすれば、症状を悪化させる。むしろ、変えようとせず、憂うつな気分に逆らわず、十分な休養を取りながら、時を待つべきなのである。 うつ病の症状の一つに、将来を悲観してしまうことがある。病気のため、もう治らないとしか考えられなくなることも多い。しかし、うつ病はいかに重症でもいつかは改善するものである。いつかは良くなるという希望を持つことが重要である。 またあせって人生の決断を下さない方がよい。例えば転職・退職、離婚などの重要な決断はなるべく後回しにする。一般にうつ病のため判断能力は低下していることが多く、適切な判断が下せないことが多い。 家族など周囲の人たちも、長い目でうつ病患者を見守ることが求められる。「頑張れ」や「甘えるな」という言葉は、患者自身の力ではどうしようもない今の状態を、今すぐに自分の力で変えるようにと、無理を求めるものとなる。そして、このような言葉は、患者を追いつめ、最悪の場合、自殺の誘因とならないとも限らない。患者のみならず、周囲の人々も、患者がうつ病であり、患者自身の力では今の状態から抜け出せないことを受け入れ、長い目で回復を信じ、あせらないことが必要である。 治療の前提として、治療の基本的原則について、しっかりと医師が説明を行い、患者が納得して治療に取り組むことが必要である。また、投薬についても、医師がしっかりと説明する必要がある。患者も、分からないことは質問していくことが必要である。こうした医師と患者のコミュニケーションが治療の成功には不可欠である。 心理的葛藤に起因すると思われる心因性うつ病の場合は、原因となった葛藤の解決や、葛藤状況から離れることなどの原因に対する対応が必要である。なお、一人一人の患者においては、心理的葛藤が原因と考えるべきものなのかどうかの判断は、かなり難しい。このため、この判断は、精神科医の助言に従うのが良いであろう。
具体的な治療方法としては抗うつ薬による薬物療法が一般的で、そのほかにも認知行動療法、精神療法(いわゆるカウンセリング)、音楽療法、運動療法など様々な治療法がある。
5.まとめ
今回うつ病について色々調べてみた結果、かなり身近に存在する疾患であることが分かった。うつ病になりやすい因子としてストレス(特に慢性ストレス)、環境の変化、病気や月経、出産、更年期などの身体的な面ももちろん、元来の性格(真面目、几帳面、手を抜けない、責任感が強い、周囲に気を配るなど)も主要な要因となっている。日本人は基本的に前述した性格的な基質が強いように思える。故にうつ病の罹患者が増加しているのも頷ける。うつ病は典型的な精神疾患の一つであるが、精神疾患は病状が身体の変化としてほとんど現れないため、診断や対応が難しいイメージがある。しかし治療法は確立されてきているし、これから更に需要が増す分野であると思うので、それらについてこれからしっかり学んでいきたいと思う。